『楽・遊・学』平成25年9月号原稿

シリーズ わがまち港北

第177回 さんぽみちの寄り道  -鶴見川3題-

 

「大倉山さんぽみち」は、次回から川沿いを離れ菊名、師(もろ)岡(おか)方面に向かいます。その前に、鶴見川にまつわるお話を3つしておきましょう。
最初の話は、アメリカザリガニです。
JR新横浜駅は来年10月1日に開業50周年を迎えます。それを記念して、新横浜町内会では記念誌発刊の準備を進めています。先日、その関係者が集まる機会があり、その席で篠(しの)原(はら)町(ちょう)の臼(うす)井(い)義(よし)常(つね)さんから興味深い話を伺いました。新横浜駅と鳥(とり)山(やま)川(がわ)の間辺りに、むかし養(よう)蛙(あ)場(じょう)があり、食用としてアメリカから輸入したウシガエルを飼育していました。餌は、同じくアメリカから輸入したアメリカザリガニでした。ところが、昭和13年(1938年)の大水害(第66回参照)でアメリカザリガニが逃げだし、この地域一帯に繁殖したというものです。
確認はとれませんが、養蛙場は昭和17年(1942年)の地形図に載っていますし、アメリカザリガニの輸入開始は昭和2年(1927年)に鎌倉の養蛙場へ餌として持ち込まれたのが最初であることが知られていますから、あり得る話です。
このアメリカザリガニは、地域の方言でマッカチンと言い(岡山ではトーチカと言います)、ザリガニ釣りは子供たちの大好きな遊びでした。
2番目の話は、鳥山川の下流部分についてです。
鳥山川は、神奈川区に源流を発し、鳥山町と新横浜1丁目の間を流れてきて、現在は大(ま)豆(め)戸(ど)町(ちょう)地先の資源循環局港北事務所辺りで鶴見川と合流しています。しかし、かつては「大倉山さんぽみち」で歩いた太(ふと)尾(お)堤(づつみ)緑(りょく)道(どう)の部分を流れて、太尾橋(太尾河岸跡記念碑の近くに昔有った)辺りで鶴見川と合流していました。太尾堤緑道の部分は、寛(かん)文(ぶん)年中(1661~72年)に掘(くっ)削(さく)された人工の用水路です。その目的は、鳥山川上流部分に位置する小机・鳥山・岸根・篠原の村々の悪(あく)水(すい)堀(ぼり)として排水機能を強化するためと、下流の大豆戸・太尾・大曽根・樽の村々の用水を確保するためでした。
鶴見川の水は、河口からこの辺りまでは海水が混じるために田畑の灌(かん)漑(がい)用としては使えず、溜池や鳥山川からの取水を利用していました。しかし、鳥山川は河道が狭く氾濫しやすいため、昭和14年頃から元の形に戻すことが考えられ、昭和30年代には再び大豆戸町地先で鶴見川と合流させました。跡地は太尾堤排水路と呼ばれ、大雨の時の排水に使われましたが、それも下水道整備により不要となり、昭和47年(1972年)に埋め立てられ、遊歩道となりました。その後公園として整備され、平成元年(1989年)に太尾堤緑道になりました。
3番目の話は、大(おお)山(やま)淳(じゅん)さんです。
大山淳氏は、2本の論文を書かれています。1つは、鳥山川の歴史を調べた「彷徨(さまよ)える鳥山川」という論文です。県道脇の地面に欄(らん)干(かん)だけが残る太(ふと)尾(お)上(かみ)橋(はし)跡の謎から、鶴見川流域の開発の歴史、地域の村々の水争いなどを明らかにしています。もう一つは、「文明期の綱島橋を再現する」という論文です。綱島橋とは、現在の大綱橋の約50メートル下流に架けられていた橋で、文化8~9年(1811~12年)の架橋の様子を再現した興味深い研究です。古(こ)文(もん)書(じょ)を解読して、丸太を渡して土を塗り込んだ土(ど)橋(ばし)の構造を図解入りで解説しています。当時の橋は全長15間(約27m)で、河川敷から水面の上を跨(また)いでいるだけでした。大山淳氏はすでに故人で、詳しい経歴等は不明ですが、土木か建築の専門知識をお持ちの方だったようです。
綱島橋は、明治22年(1889年)に綱島村・大曽根村・樽村・太尾村・大豆戸村を合わせて大(おお)綱(つな)村(むら)が出来た時から、大綱橋と呼ばれるようになりました。その後、綱島街道(東京丸子横浜線)が拡幅改修されるのに合わせて、昭和12年(1937年)1月に現在の場所へ移動し、全長170メートル余の鉄橋となりました。この時、開通式では綱島温泉の芸者たちが渡り初めをしました。現在の橋は2本構成で、西側が昭和45年(1970年)に、東側が昭和52年(1977年)に竣工したものです。附属の人道橋は、西側が平成18年に拡幅されています。
大山淳氏の手書き論文は、港北図書館(来年3月まで耐震補強工事のため休館中ですが)から借り出すことが出来ます。
さて、次回はまた菊名駅から歩き始めましょう。

記:平井 誠二(大倉精神文化研究所研究部長)

 

 

 

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