『楽・遊・学』平成23年1月号原稿

シリーズ わがまち港北

第145回 空から希望の光が…  -高田の天満宮-

 

あけましておめでとうございます。初詣(はつもうで)は行かれましたか。初詣の起源は平安時代に遡るらしいのですが、現代のような参詣(さんけい)の習慣は、明治時代中期以降の鉄道網の発達と共に広まったといわれています。皆さんは、初詣で何を祈願されたでしょうか。
振り返ると、昨年は先の見えない暗いニュースが多かったような気がします。その中で、探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから物質のサンプルを持ち帰ったニュースは、大人にも子供にも夢と希望を与えてくれました。特に、7年間60億キロの旅を終えて地球に帰還した「はやぶさ」が、大気圏再突入で大きな光を放ちながら、カプセルを残して燃え尽きていく様は感動的ですらありました。このニュースを見ていて、むかしむかし、港北にも似たようなことがあったのを思い出しました。高田(たかた)の天満宮(てんまんぐう)の掲示板に、次のような由緒が書かれています(少し読みやすくしました)。
     室町時代の初め、後醍醐天皇(ごだいごてんのう)の頃、正中(しょうちゅう)2年(1325年)5月25日夜、申酉の方(しんゆうのかた・西南西の方角)より光物(ひかりもの)が現れ、しきりに震動した。夜になってもこの光物は四方を昼の如くに明るくし、ついに当地の山中に鎮(しず)まったが、昼夜を問わず電光が乱れ飛び、人々は近づくことが出来なかった。
    この時、小蛇が梅の若木の下に現れ、異香(いこう)を放ち、その様はまさしく観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)が天神(てんじん)として垂迹(すいじゃく)したかのように思われた。興禅寺(こうぜんじ)弁殊法印は、「これこそ衆生済度(しゅじょうさいど)の方便(ほうべん)、大慈大悲(だいじだいひ)の誓(ちかい)なり」と感じ、先達(せんだつ)となって榊(さかき)の枝を取ってこの前に置くと、小蛇は榊の枝の上に留まった。特に領主桃井播磨守直常(ももいはりまのかみつね)は、近くでこの様子を見聞きし、この有り難い様に信心止みがたく、ついに社殿を建立(こんりゅう)させて、当所一帯の氏神(うじがみ)として仰いだという。
空から降ってきた光物とは何でしょう。隕石でしょうか、UFOでしょうか。高田の山中を掘れば、その残骸が見つかるかも知れません。徳川埋蔵金よりも夢があって、面白そうです。突如として現れた小蛇の正体は、…?
高田の天満宮は、菅丞相霊(かんしょうじょうのれい・菅原道真(すがわらのみちざね))を祭神とする神社ですが、その創建にはこのような伝説があったのです。菅原道真は、平安時代の学者で政治家でしたが、無実の罪を着せられて九州の太宰府(だざいふ)へ左遷(させん)され、失意の内に亡くなりました。この時、京都にあった屋敷の庭の梅が太宰府に飛んできて根を下ろしたという伝説や、怨霊(おんりょう)となった菅原道真が蛇に化身(けしん)して現れたという伝説があります。また、神とは、仏が人々を救うために姿を変えて現れたもので、元は同じだとする「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」の考え方があり、それによれば、神となった菅原道真(天神(てんじん))の本当の姿は観音様だったといわれます。小蛇が榊(さかき)の枝に留まるのを見ていた桃井直常(ももいただつね)は、その様子が観音が天神として現れたかのように見えたというのです。
桃井直常については、『新編武蔵風土記稿』の高田村の項に、「旧跡桃井播磨守某館跡(あと)」が天神社(天満宮)の西の方「天神の原」という所にあったという言い伝えがあることと、館の主は『太平記(たいへいき)』にも出てくる桃井直常らしいと書かれています。「天神の原」とは、高田小学校の辺りといわれています。筆者は未確認ですが、「桃井直常の塚」もあるようです。
実在した桃井直常は南北朝時代の武将ですが、生年不詳で1376年に死亡しています。1336年に足利尊氏(あしかがたかうじ)に従って戦をしたのが歴史上に現れた初見ですから、1325年頃高田に館を構えていたのかは確認出来ません。
高田の天満宮のすぐ近くには、横浜七福神(1月1日から7日がご開帳)の興禅寺(こうぜんじ)があります。興禅寺には、桃井直常が元応(げんおう)2年(1320年)に再興したとの伝承があります。併せてお詣りされるのも良いでしょう。
さて、小惑星イトカワの名は、「日本の宇宙開発・ロケット開発の父」と呼ばれる糸川英夫(いとかわひでお)博士の名前から命名されました。宇宙開発の夢を持ち続けてペンシルロケットの開発から研究を続けた糸川博士のように、将来をになう子供たちが夢を持てるように、初詣でお祈りしてこようと思います。

 

記:平井 誠二(大倉精神文化研究所研究部長)

 

 

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