『楽・遊・学』平成23年4月号原稿

シリーズ わがまち港北

第148回 区内にあった銀行本店  -わが家が石橋銀行-

 

新年度を迎え、希望に胸をふくらませている方も多いと思います。大学新卒者の就職人気企業ランキングを見ると、常連企業の中に大手銀行の名が見えます。実は、新吉田町に「銀行」(ぎんこう)という屋号を持つ家があります。加藤家です。「銀行」という屋号は、加藤家の職業から付けられたものです。
加藤家が所蔵する江戸時代から昭和初期の資料は、横浜開港資料館がマイクロフィルムに撮影して、複製を公開しています。その目録は、『横浜開港資料館紀要』第18号に掲載されています。加藤家の資料の中に、石橋銀行(いしばしぎんこう)という聞き慣れない銀行に関する資料が含まれています。石橋銀行については、津久井瀧雄(つくいたつお)「都筑郡(つづきぐん)の地方銀行をめぐって~資料紹介と若干の問題提起~」(『都筑文化』第4号)、平野正裕(ひらのまさひろ)「都筑・橘樹(たちばな)地域の一地方銀行-明治期の「石橋銀行」-」(『開港のひろば』第39号)、平野正裕「石橋銀行の経営について」(『近代横浜の政治と経済』)の研究があります。これらの研究から、石橋銀行の概要が分かります。
石橋銀行は、明治33年(1900年)に橘樹郡中原村小杉(川崎市)の原伝蔵が頭取(とうどり)となり、自宅を本店として開業した銀行でした。新田村吉田(にったむらよしだ)の加藤大助はこれに参加し、自宅を石橋銀行新田支店としました。開業当初は唯一の支店でした。その後、順調に経営を拡大し、山内(青葉区荏田(えだ))、品川(東京)、生見尾(うみお・鶴見区生麦(なまむぎ))、稲田(いなだ・川崎市多摩区登戸(のぼりと))、宮前(みらまえ・川崎市宮前区野川(のがわ))などに支店を増やしていきます。余談ですが、生見尾支店を経営していた関口次郎右衛門家も「銀行」の屋号で呼ばれていました。
しかし、頭取の原伝蔵が建設事業に失敗したとの風聞が流れ、取り付け騒ぎとなったことから経営が傾き、原伝蔵は引退します。明治43年(1910年)、加藤大助が頭取となり、支店だった自宅を本店としました。加藤大助は経営改革を進めますが、日露戦争後の恐慌(きょうこう)が農村に波及して慢性的な不況が続いたことが影響し、しばらくは経営が改善されませんでした。やがて、第一次世界大戦によって農村に好景気が起こり、大正5年(1916年)からは経営が軌道に乗ります。しかし、戦争景気はいつまでもは続きません。大正9年(1920年)からその反動による長い不況の時期に入ります。石橋銀行はこれに耐えながら、なんとか横ばいの経営で推移していました。しかし、大正12年(1923年)の関東大震災で大きな損害を被ります。石橋銀行は経営困難にいたり、昭和3年(1928年)に解散しました。
石橋銀行が解散して、すでに80年以上が経ちますが、加藤家には大きな金庫が残されています。正面のトビラを開くと、中トビラの右側に「㋑石橋銀行」、左側に「㋑新田支店」と書かれています。㋑は石橋銀行のマークなのでしょう。
その後、港北区内には銀行のない時期がしばらく続いたようです。
昭和24年(1949年)の『港北区勢要覧』を見ると、わずかに横浜興信銀行(よこはまこうしんぎんこう・横浜銀行の前身)の妙蓮寺(みょうれんじ)支店と、妙蓮寺支店綱島出張所の2行(こう)が記されているだけです。
妙蓮寺支店は、旧都南貯蓄銀行(となんちょちぎんこう)港北支店を継承して昭和20年(1945年)5月5日に開業したものです。貯蓄銀行とは、個人の貯蓄を引き受けることを主目的とする金融機関です。都南貯蓄銀行は、県下貯蓄銀行の大合同により大正10年(1921年)に設立されました。昭和9年(1934年)の『神奈川区勢要覧』には港北支店(当時の妙蓮寺は神奈川区内)が見あたりませんので、港北支店を開設したのは昭和10年代のことと思われます。しかし、当局の指導により貯蓄銀行は普通銀行への吸収合併が図られ、昭和20年に都南貯蓄銀行は横浜興信銀行に経営譲渡されました。
『横浜銀行六十年史』によると、横浜興信銀行綱島出張所は昭和22年10月18日に設けられ、昭和24年に綱島支店に昇格しています。その後は、昭和36年に日吉支店、昭和38年に菊名支店と南日吉支店、昭和45年に大倉山支店が開業しています。
現在では、横浜銀行だけで、港北区内に有人店舗が8支店、無人出張所が11ヵ所へと増えています。横浜銀行を含めて、全ての銀行・信用金庫の支店・出張所を数えると46ヵ所になりますが、本店は1行(こう)もありません。しかし、100年ほど前にはなんと港北区内に銀行本店があったのです。


記:平井 誠二(大倉精神文化研究所研究部長)

 

 

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