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大倉精神文化研究所

横浜市港北区地域の研究

第1回 師岡熊野神社の筒粥

1999.01.01

文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北』(『わがまち港北』出版グループ、2009年7月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。


東急東横線大倉山駅を降りて徒歩10分、師岡(もろおか)熊野神社(諸岡町)は関東における熊野信仰の拠点として、社伝によると1270年余の由緒を誇ります。同社には数多くの古神事が伝えられていますが、その中でも有名な筒粥神事(つつがゆしんじ)が毎年1月14日に行われます。

御粥(おかゆ)を用いた年占(としうら)の神事は、小正月(こしょうがつ)の行事として全国各地に伝わっていますが、師岡熊野神社の筒粥神事は天暦(てんりゃく)3年(949)より毎年行われており、今年(平成11年)で1050回を数えます。平成6年(1994)には横浜市の無形民俗文化財にも指定されています。

儀式は古式にのっとり、境内に据えた大釜の中に、玄米と本殿裏の「の」の池から汲んだ水、鶴見川の河川敷から刈り取ったヨシの茎二七本、五つ葉のナギ(御神木)の葉を入れ、早朝から粥を炊きます。炊きあがると、祝詞(のりと)をささげ、釜の中からヨシを取り出し、本殿に運びます。そして、氏子総代の立ち会いのもとで宮司さんが釜の中からヨシの筒を一本ずつ割って、その中に粥がどのくらい入っていたかを調べます。

占うのは、大麦、小麦、早稲(わせ)・中手(なかて)・奥(おく)の米から始まって、ひえ、粟(あわ)、大豆(だいず)、小豆(しょうず、あずき)、大角豆(だいかくず、ささげ)、ふんどう(緑豆)、あさ(麻)、な(菜)、大根、荏(え、えごま)、ごま、きび、いも、そば、霜粟(しもあわ、晩生の粟)、夕顔(ゆうがお、かんぴょう)、かいこ、茶の各種農作物の作柄です。かつては農村地帯であったこの辺りの当時の生活が忍ばれます。そして、日、雨、風と続き、最後は「世の中」まで、その年の吉凶を占います。古くは夜に行われていましたが、現在は午後2時から4時頃に行われており、誰でも見学できます。
神事が終わると、直会(なおらい)として、お粥が参会者に振る舞われます。神様の神意が入ったお粥ですから、これをいただくと、その年は風邪を引かないと言い伝えられています。

今年(平成11年)の御神意がどうでますか、次回にご報告します。

記:平井 誠二(大倉精神文化研究所専任研究員)

(1999年1月号)

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