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大倉精神文化研究所

横浜市港北区地域の研究

第221回 12年に一度の霊場巡り―その9―

2017.05.01

文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北3』(『わがまち港北』出版グループ、2020年11月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。


酉歳(とりどし)には、前回ご紹介した都筑橘樹(つづきたちばな)酉歳地蔵霊場(じぞうれいじょう)に加えて、もう一つ武相不動尊(ぶそうふどうそん)霊場の御開帳(おかいちょう)があります。会期は5月1日から28日の午前9時から午後5時までです。

この霊場は、昭和43年(1968年)に、神奈川県川崎市・横浜市から東京都大田区・日野市に分布する28ヵ寺が集まって結成されました。翌昭和44年(1969年)が酉歳で、最初の御開帳が催されました。港北区域で御開帳をしている霊場としては、最も新しいものです。会の発起人は身代り不動尊(2番札所)でした。一般に、発起人が1番札所を務めることが多いのですが、川崎大師に譲ったのだそうです。札所が28ヵ所なのは、不動尊の縁日が28日であることにちなんでおり、28番札所は高幡不動です。武相の名を冠していますが、全ての寺院が武蔵国(むさしのくに)にあり、相模国(さがみのくに)には分布していません。ちなみに、武相学園の校名の由来は、第212回をご覧下さい。

12年に一度の酉歳御開帳なので、今年で5回目になるのかと思っていましたが、西方寺(さいほうじ)の伊藤増見(ぞうけん)住職のお話では、12年間隔では長いので、その中間にあたる卯歳(うどし)に「中開帳(なかかいちょう)」をしたことが1、2度あるそうです。

毎回バスツアーが企画されますが、札所が川崎市から日野市まで広範囲に分布していることから、日帰り2日のコースとなっています。

では、港北区内にある札所を順に紹介していきましょう。

7番札所 興禅寺(こうぜん)(天台宗)

高田町(たかたちょう)の興禅寺については、前回ご紹介しました。御開帳の善立(ぜんりゅう)不動尊は、江戸時代高田村にあった善立寺(ぜんりゅうじ)の本尊でしたが、後に廃寺となり興禅寺に移されたものです。5月1日から8日の間に参拝すると、地蔵菩薩と不動明王の2つの御開帳を一度に体験出来ます。

8番札所 金蔵寺(こんぞうじ)(天台宗)

御詠歌(ごえいか)  くもりなく  不動の鏡  あらたけく

法(のり)の光は  代々(よよ)を照らさん

日吉本町(ひよしほんちょう)の清林山仏乗院金蔵寺は、貞観(じょうがん)年間(859~877年)に天台宗第5代座主(ざす)智証大師(ちしょうしだいし)円珍(えんちん)が開基し、本尊の大聖不動明王(だいしょうふどうみょうおう)も円珍作と伝えられています。

武相不動尊霊場はまだ新しいので、前回平成17年(2005年)御開帳時の納経帳(のうきょうちょう)に御詠歌が記されていたのは11ヵ所のみ、区内では金蔵寺だけでした。

9番札所 西方寺(さいほうじ)(真言宗単立)

新羽町(にっぱちょう)の普陀洛山(ふだらくざん)西方寺は、明応(めいおう)年間(1492~1501年)に鎌倉から現在地に移転してきました。日切(ひぎり)不動尊の「日切」とは、約束の日限を守って願いを叶えてくれるということです。

西方寺には、旧小机領三十三所子歳(ねどし)観音霊場の十一面観音立像(りゅうぞう)があります。平安時代、12世紀の作と推定されるこの観音立像は、平成23年(2011年)の東日本大震災で破損したため、朝日新聞文化財団の文化財保護助成を受けて、修理保存事業を実施し、今年3月15日に開眼(かいげん)供養が行われました。

14番札所 三会寺(さんねじ)(高野山真言宗)

鳥山町の瑞雲山本覚院三会寺は、源頼朝(みなもとのよりとも)が佐々木高綱(たかつな)に奉行を命じて建立(こんりゅう)したと伝えられるお寺です。本尊は弥勒菩薩(みろくぼさつ)ですが、『新編武蔵風土記稿』には「本尊は不動の木像にて長[なが]さ2 尺[しゃく]3寸[ずん]許[ば]かり(約70㎝)立像なり、行基[ぎょうき]菩薩の作なりといひ伝ふ」と書かれていますので、江戸時代には厄除[やくよけ]不動尊が本尊だった時期があるようです。

26 番札所 光明寺(こうみょうじ)(高野山真言宗)

新羽町の遍照山光明寺は、明応5年(1496年)に継伝僧都が鳥山町三会寺の末寺として開創しました。御開帳の大聖不動明王像は、髙野檜(こうやひのき)の一木造(いちぼくづくり)で、両脇侍の矜羯羅童子(こんがらどうじ)、制多迦(せいたか)童子と共に、総本山の高野山金剛峯寺(こんごうぶじ)より勧請されたものです。

さて、お寺を参詣すると、不動尊の手からは五色の糸(善の綱)がお堂の外まで張られており、供養塔で五色の長い布切れとなって下げられています。この善の綱に触れることで不動明王と縁を結び功く徳どくをいただける(善処に導かれる)とされます。

お茶やお菓子のご接待を用意してくださっていることもあります。お断りしないのがマナーだそうです。お茶をご馳走になりながら、様々な方々との出逢いを楽しむのも札所巡りの味わいです。

記:平井 誠二(公益財団法人大倉精神文化研究所所長)

(2017年5月号)

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