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大倉精神文化研究所

横浜市港北区地域の研究

第28回 春の訪れは市民の森から

2001.04.01

文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北』(『わがまち港北』出版グループ、2009年7月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。


4月というと、旧暦では夏に入りますが、ちょうど桜も満開で、春も盛りというところでしょうか。しかし、近年では、区域も都市化が進み、公園等にでも行かないと季節感が無くなりつつあります。

さて、横浜市には、全国でも珍しい「市民の森」という制度があります。都市化の進む中で、緑を守り育て、市民の憩(いこ)いの場をつくることをめざし、昭和46年(1971)度に制定されました。具体的には、翌47年(1972)4月5日指定の「飯島市民の森」(栄区)に始まり、現在(2001年)までに24ヶ所、計452.4ヘクタールの森が指定されていて、今後も増加が見込まれます。市民の森の特徴は、それぞれの森には民間の地主がいて、市有地ではないことです。土地所有者のご厚意により、横浜市が森を借りて、簡単な整備をして一般に開放しているのです。利用時間は、日の出から日没までです。

区域には、小机城市民の森(こづくえじょうししみんのもり、昭和52年10月1日指定、面積4.6ヘクタール)、熊野神社市民の森(くまのじんじゃしみんのもり、昭和55年7月19日指定、面積5.2ヘクタール)、綱島市民の森(つなしましみんのもり、平成3年10月26日指定、面積6.0ヘクタール)の3ヶ所があります。

小机城市民の森は、JR横浜線小机駅より北西に徒歩15分の小高い丘です。第4回で取り上げた小机城址がそのまますっぽりと市民の森に指定されています。4月には毎年小机城址まつりも開かれます。本丸や二の丸址(あと)、空堀(からぼり)、土塁(どるい)などがほぼ原型のまま残されていて、ここが城山と呼ばれているのがよく分かります(ちなみに山の下が城郷(しろさと)です)。孟宗竹(もうそうちく)の竹林がみごとです。少し足をのばして、鶴見川の岸辺を散策するのも楽しいでしょう。

熊野神社市民の森は、東急東横線大倉山駅より北東に徒歩10分。師岡熊野神社(第1回参照)の社叢林(しゃそうりん、鎮守の森)と、その北東の天神山(てんじんやま)の森からなっています。尾根づたいに遊歩道を歩いていくと杉山神社に出ます。師岡熊野神社は1000年以上もの歴史があり、社叢林もその間氏子(うじこ)等により守られてきたので、アカガシを中心とした常緑広葉樹林は、きわめて自然に近い林として、平成3年(1991)に県の天然記念物に指定されています。

綱島市民の森は、東急東横線綱島駅より北西に徒歩10分ですが、駅前の綱島公園を抜けていくとちょっとした山歩きが楽しめます。クヌギやコナラの雑木林(ぞうきばやし)が多いのですが、近年は、桃の里復活をめざして、モモやハナモモの木がたくさん植樹されています。西の端まで歩くと桃の里広場に出ます。ここで毎年綱島桃まつりが開かれます。

さて、市民の森のもう一つの特徴は、土地所有者や地元の有志による「市民の森愛護会」の方々が、森の管理や清掃などをボランティアで行ってくださっていることです。ありがたいことです。私たち利用者も、生き物を大切にし、たばこ等に注意するとか、ゴミを持ち帰るといったマナーを守ることが大切です。

市民の森には、一般の公園とは違って、遊具等はありませんが、自然の森をなるべくそのままの姿で残そうとしていますから、開発の進む区域では珍しくなった在来種の植物も残されています。注意していると、昆虫や小鳥・動物も数多く見られます。わざわざ遠くまで出かけなくても、近くの市民の森に行けば手軽に春を満喫(まんきつ)できます。スニーカーに履き替えて、暖かい日差しの中を散策してみませんか。

記:平井 誠二(大倉精神文化研究所専任研究員)

(2001年4月号)

  • 【付記1】 2003年1月現在、市民の森は23ヶ所、計367.5ヘクタールとなっています。
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